引っ越し

朝6時。

眠い目をこすりベットから出る。

最近7時起きの生活が続いていたので、頭がボーッとした。

朝食を済ませ7時に家を出た。

駅に向かう。

小中高と学校が徒歩圏内だった自分にとって通勤時間の電車は地獄だ。

でも貴族みたいなことは言ってられない。

朝7時台の山手線に乗った。

身体距離の近さにストレスを感じながら電車に揺られ、

新宿で降りた。

新宿は自分の天敵である。

今まで何度か新宿で乗り換えたが、ほぼ毎回迷う。

集合時間のギリギリを攻める自分はいつもこの新宿に苦しめられる。

(典型的に地図が読めない。標識の表示を見間違える。)

例にもれず今日も間違えた。

中央線の逆方面に乗りそうになった。

危なかった。

新宿嫌い。

中央線に何とか乗り、阿佐ヶ谷で降りた。

阿佐ヶ谷は初めて行った。

とても雰囲気のいい街だと思った。

何といっても、路地を入ると騒音が全くしないのがいい。

駅から目的地へ余裕をもってゆったり歩いた。

なんせ集合時間の30分前についてしまったのだから。

自分にしては珍しい。

静かな朝の街を歩き、自販機で水を買った。

これが間違いだった。

喉が渇いていたので水を一気に飲むと、

おなかがぎゅるぎゅるなり始めた。

※ここからはとても汚い話になるので、食事中は読まない方がいい。

あっ、来たなと一瞬で悟った。

ものすごく腹が痛い。

Google mapでコンビニを探す。

駅から離れてしまったこともありコンビニがあまりない。

ヒーヒーフーを繰り返しながら、何とか711にたどり着いた。

トイレがない。

ふざけるな!

Google mapで公園を探すと近くに小さな公園があった。

急いでいくと公衆便所が一つあるのが見えた。

よかったと安心していたらお尻の緊張も緩みそうになった。

あぶないあぶない。

先客がいたので外で何とか待ち、すぐに入った。

照明なし和式。

実は和式で用を足したことがない。

ほぼ暗闇の中で用の足し方をスマホで調べ実践した。

実践あるのみ。

その時だった。

そこに拭くものがないことに気づいたのは。

インド人に倣って左手を不浄のものにするか悩んだ。

悩んだ挙句導き出した解がマスクだった。

マスクを外し肛門に当てる。

惨めな気持ちと新鮮な気持ちが共存してとても複雑だった。

ごめんマスク。

きれいさっぱりな気持ちでトイレを出た。

布マスクを予備で持ち歩いていたのが今日のファインプレーかな。

目的地に向かう。

数分ほど歩くと目的地のアパートについた。

そう、今日は引っ越しのアルバイトをしに来たのだ。

(こっからは人物が多く出てくるのでそれぞれにあだ名をつける。)

アパートにつくと、すでに業者の人が一人いた。

この人を”新卒さん”と名付けておく。

彼はテンパで上背は自分より低かった。

のちにわかったことだが彼は高卒ルーキーの社員さんだったらしい。

新卒さんに挨拶をする。

新卒さんが今日の作業の内容を説明してくれた。

最初は何を言ってるのか全く聞き取れなかったが、何回も聞き返したらなんとか聞き取れた。

たわいもない話をしていると、トラックが1台到着した。

新卒さんがオーライ!と言い、トラックが駐車される。

中から出てきたのは眼鏡をかけた巨漢の社員さんだった。

この人を”中森塾長”と名付けておく。

あだ名通り、武田塾の中森塾長にそっくりだった。

彼が今回の作業のリーダーだった。

挨拶をし、渡された制服に着替えた。

そこから約1時間。

単調な積み荷作業が始まった。

1階のベランダから荷物を受け取り、トラックの荷台にいる新卒さんに渡す。

これを何回も繰り返した。

頭が狂いそうになる。

時々中森塾長から何か指示されるのだが、何を言ってるのかさっぱり聞き取れない。

何回も聞き返し、逆切れされながらも忠実にこなした。

荷物は多種多様なものがあった。

画材から彫刻、登山用品から大量のウルトラマンの人形まで。

とにかく重い。

腕がパンパンですでに筋力なさを痛感した。

それでいてほかの2人は軽々持つのでびっくりした。

2人ともふくよかな体型で決して筋肉があるようには見えない。

でも腕っぷしが強かった。

見せ筋と本物の筋肉の違いが分かったような気がした。

中のものをすべて出し終えた時、新卒さんはミスを犯していた。

積み荷の積み方を統一して隙間なく行っていなかったために、パンパンになっていたのだ。

どうすんの。

クロちゃんみたいの声で中森塾長が責め立てる。

いやいけますと言って強引に押し込むものの、無理だった。

結局積み荷を半分くらい下ろしきれいに積みなおした。

予定時刻を10分ほどオーバーし中森塾長はイライラしていた。

ここまでで1時間しかたっていなかった。

6時間勤務の予定だった。

これはしんどいな。

この時にはすでに、二度とこのバイトはやらないと心に決めていた。

トラックに乗り次の場所に向かう。

それにしてもトラック運転する人はすごい。

よくあの車幅を意識しながら運転ができるなぁ。

免許取得後初めての路上で、開始20分経たずして事故を起こした自分は心から尊敬する。

(この事故の話は後日。)

次の場所についた。

ここで新たに2人のメンバーが加わった。

1人は”丸型サーモント”、もう1人は”ナイジェリアの精鋭”と名付けておく。

この場所でも積み荷作業を行った。

先ほどのアパートのオーナーが今回のお客さんらしい。

そのお客さんの一軒家から荷物を運び出すのが2件目の内容だった。

バケツリレー方式で段ボールや布団、家具などを運び出す。

とにかく階段で運ぶのがきつかった。

縦に長い冷蔵庫なんかは腕が死ぬ。

この作業で光ったのがナイジェリアの精鋭の筋力だ。

見た目からしてかなりいかついのだが、

2人掛かりで持ってきた家具を1人で軽々持ち上げるのには驚いた。

それでいて笑顔がいい。

彼はトラックの中に入って積み荷の受け取っていたのだが、

新卒さんのようなミスは犯さなかった。

テトリスのようにきれいに段ボールと家具を隙間なく入れていた。

おかげでぎりぎりトラックには入り切り無事作業が終了した。

そして3件目の案件に向かう。

丸型サーモントのトラックに乗った。

やはりトラックを運転する人はすごい。

なんなんだあの車幅感覚は。

丸型サーモントが突然歌いだしたのには驚いた。

自分は歌を知らないのでshazamを使ったらEXILEばっかだった。

へー。

車内では全く話さなかった。

ただずっと歌声だった。

丸型サーモントがマスクを外すと無精ひげだった。

思えばナイジェリアの精鋭以外、今日あった社員全員が寝ぐせと髭のセットだった気がする。

シンパシー感じた。

自分の中高時代に似てる。

それと同時に寝ぐせの不潔さに気が付けたので良かった。

3件目の場所につくと、新たに2人のメンバーが加わった。

あまり関わりがなかったのだが、あだ名だけつけると

”惜しい羽生結弦”と”オリラジ藤森小サイズ”。

3件目は豪邸だった。

8部屋くらいあった。

さっきのお客さんの新築らしい。

ちなみにこのお客さんはテニスのナショナルチームにいた人らしい。

いまだに松岡修造と何かをやってると言ってた。

彫刻や花瓶、家具などを部屋に振り分けながら運び入れる。

2台目のトラックを開いたとき事件が起きた。

ナイジェリアの精鋭がトラックを開けると荷物が落ちてきたのだ。

落ちたと同時にガラスの割れた音がした。

その場の全員が文字通り一瞬固まった。

中森塾長がナイジェリアの精鋭を少しにらみながらお客さんを呼んだ。

お客さんと一緒に中身を確認すると、

刺繍の入った額縁のガラスが粉々だった。

スイマセン、スイマセン。

ナイジェリアの精鋭が必死に謝っていた。

不幸中の幸い、お客さんは笑っていいよいいよと言ってくれた。

やはりこのくらい精神的に余裕がある人は魅力的だ。

中森塾長がナイジェリアの精鋭に向かってそのあとも注意していた。

そのたびにスイマセン、スイマセンと言っているのを見ると

なんだかかわいそうに見えた。

あれはちと仕方がない気がしたけどなぁ。

1時間かけて搬入を終わらせた。

片付けの時、新卒さんが後輩に教えるようにいろいろ教えてくれた。

まだ後輩を持ったことがないからかなと思った。

口調がこの業界で働くなら覚えたほうがいいよという感じだった。

申し訳ない気持ちだった。

この仕事自体は不必要なんてことはないし、尊敬してる。

が、もう二度とやらないので。

丸型サーモントのトラックに乗って休憩場所に移動した。

早稲田の学生寮のところのコンビニでおにぎり買ってトラックで食べた。

その食べてるときに自分の着ていた作業服の股間の部分に

大きな穴が開いてることに初めて気が付いた。

パンツ丸見えだったので、この格好でコンビニ入ってたと思うときつかった。

そのあとからはシャツを出して隠すようにした。

丸型サーモントはカップ麺を食べていた。

とび職、運送業者はカップラーメンと相場が決まっているのだろうか。

30分休憩して最後の案件に向かった。

まず4トントラックと待ち合わせて積み荷をリレーした。

お客さんの名前の漢字が読めなくてみんな困った。

関西弁のトラックお兄さんからすべての積み荷を受け取り、目的地に向かった。

中野の公園広くていいな。

空も広いし。

最後の場所は3階だった。

今日一番のしんどさ。

自分は貧血になりやすいので、ものすごく頭が痛くなっていた。

お客さんは外国人夫婦だった。

英語で話しかけられたので最初は対応できた。

でも、Where is your distribution center?と聞かれ

distoributionの意味がわからないという英語レベルの低下をさらした。

ナイジェリアの精鋭が流ちょうな英語で対応してくれたので助かった。

ありがとうナイジェリアの精鋭。

やっぱ英語は勉強しなきゃいけないし、

文字とにらめっこしてもしゃーないなと思った。

こんなバイトで国際化を痛感するとは…。

階段での運びはかなりきつかった。

第一に腕がもう上がらなくなっていた。

ワクチンより腫れてる。

まぁこれも運動してないツケ。

階段で3回くらい荷物を落とした。

全部本だったので割れなくてよかったが、

その都度中森塾長に怒られた。

3回目はもう怒られ慣れた。

作業中、近隣住民からトラックの路駐を通報され

警察が来た。

トラックを動かす羽目になり、運ぶ距離が伸びた。

本当にしんどかった。

なんとか運び終えると、もう帰っていいよと言われた。

解放感この上なし。

丸型サーモントに爽健美茶をもらい、トラック内で着替えた。

ありがとうございましたと言って中野でトラックを降りた。

腕が上がらなかった。

色々あったがいい経験になったと思う。

引っ越し業者の人に対する見方が変わったのは間違いない。

改めて尊敬の念が湧いたし、今日あった人にはこれからも頑張ってほしい。

でももう二度とやらない。

コメント

このブログの人気の投稿

常連